プリズム

痛みを想像する。
そこにあったかもしれない傷はとうに癒えて今はなめらかな肌色が広がるばかりで、こんなに君の今の体の隅々まで触れていても尚、私には触れられないものがあることをふと感じて、強烈な安心と興奮を覚える。
嬉しい、私には図り知れない痛みが君の中にあったことが。さしのべる手さえない寂しさがあったことが。
そのてのひらが別の髪を撫でて、別の頬を包み込んでいたことが。
途方もなく嬉しい。呆れるくらい安心する。
そのスパイスが、細やかで脆い奇跡をいっそういとおしくさせる。
ここにいる君と私、それは全部ではなくて、一端に過ぎないこと。