オータム・イン・メトロ

体内で感受性が理性を振り切って暴走するメトロノームのようになる。名前も知らぬ誰かの運転する東京メトロの中。日中、抑圧されているそれが暴走し、露わになる。世界が相貌を変える。淡い優しいヴェールは切って落とされ、私はそれと瞳を合わす。見知らぬ人の呼吸と、疲れと、甘えに満ちた車内に、それは姿を現す。わたしはその感覚を忘れないよう五感を研ぎ澄ましそれを見つめ続ける。混沌と一括りにされたものの詳細一つ一つを、苦しくなるまで見つめ続ける。剥き出しになった世界は、果物に似ている。そういう瞬間、指先がうずくのはやはり、私が物を書きたい人間だからゆえなのだと自覚して、嬉しいような哀しいような何ともいえない気持ちになる。メトロには、私を感傷的にさせる魔物が乗車している。